井上澄子(南部八戸裂織工房「澄」) | 裂織

裂いた古布と糸を横糸・縦糸にして織りあげる、南部伝統の織りもの。
厳しい生活の中で女性たちが培ってきた美しさへの願いが、織り目に宿ります。

裂織はどうして美しいのでしょう?

南部裂織は、衣料が貴重だった江戸時代に、着古した着物や布を再生する機織りの技法のひとつとして編み出されました。厳しい生活を強いられた農村女性の知恵と言えます。
細く裂いた古布と木綿糸を横糸・縦糸として、地機(じばた)で織り上げます。

色が混ざり合い、柄が折り重なった時、辛く苦しい生活を忘れさせてくれる美しさが生まれるのかもしれません。古い布を裂きながら、時代を帯びた古い色合いがどういった美しさへと変化していくのか、想像して楽しむんですよ。

江戸時代は1603〜1868年。この頃、八戸を含む南部地方は度々飢饉に襲われている。特に天明の大飢饉(1782〜)の様子は、寺社などに今も記録が残されている。
  • 裂織の横糸
  • 緯糸(よこいと)と経糸(たていと)
  • 裂織と糸巻き機
  • 地機にかかった縦糸

織り上がりははじめから想像しているのですか

いいえ、そもそもが織り上がりを完全には想像できないんです。織っている間にも、裂織の表情はどんどん変わっていってしまうからです。

古布の柄の出方や縦糸との組み合わせによって、裂織は刻一刻と変化していきます。裂いた状態の古布からは想像も出来なかった色合いが浮かび上がってきたり、模様に不思議なリズムが生まれてきたりするんですよ。

だから、はじめのうちは大まかなイメージだけです。むしろ織っている最中に「どんなものに仕上がっていくだろう?」とワクワクしているんです。

  • 裂織
  • 古布と糸それぞれの色
  • 裂織は一点物

織っている最中は何を考えているのですか?

基本的には織り上がっていく裂織のことを考えていますが、時々…糸のことを考えます。

例えば八戸の辺りだと漁業が盛んですから、大漁旗の古布なんてものが手に入ったりするんです。
昔は海に出れば大漁だった漁業も、最近は波が激しくなりました。
この大漁旗を手放した漁師も、昔は大漁を誇っていたのだろうな…なんて。

それから、例えば黒い縦糸を使っている時は「昔あかぎれの時はこの糸を包帯代わりに巻いてしのいでいたっけな」なんて思い出すんです。

  • 地機(じばた)
  • 裂織の腰当て
  • ロクロ曵棒(ひきぼう)
  • 織り手と地機

裂織の魅力を一言で言うなら、何でしょう?

古布のことを、この辺りでは「ボット」と呼びます。ボットは必ず前の使い主がいて、使い方があって、それではじめて私たちの手元に来るんですね。

私たちの何世代も前、先祖の女性たちは、ボットを決して捨てなかったんです。割いて織って、貧しい生活の中にささやかな美しさを紡いでいったんです。

地機と一心同体になって織っていると、私たち現代に生きる女性にも同じ精神があるような気持ちになります。主婦の仕事の合間、例えば朝4時から一人で地機に向かっていると、まるで脈々と続く過去を織り上げているような気がするんですね。

それが裂織の美しさの秘密なのかもしれません。

  • 地機と裂織
  • 裂織工房の全景
  • ものを大切にする文化を紡ぐ